よくあるご質問 酒茶論
上野伸弘のコラム
第五回 小弓鶴酒造(愛知)
昨年六月思いもよらぬニュースが届いた。それは愛知県の小弓鶴酒造さんが火災で全焼というものであった・・・。
私が小弓鶴酒造さんを訪ねたのは、今から四年半以上も前のこととなる『酒茶論』をオープンするに当たって酒蔵さんとの打ち合わせで参加蔵を巡って回ったときの事となる。
失礼を承知で申し上げると、小弓鶴酒造さんについては長期熟成酒研究会を通じて知るまでは、銘柄はおろかその存在さえ知らない蔵でした。ましてや研究会の催す『古酒を楽しむ会』に毎回出席しているわけでもなく、また出席していてもちょっと近寄りがたい、およそ商売人とは思えぬ印象で、白髪に物静かななかにも凛とした風格を感じさせるいわゆる紳士然という言葉が当てはまるであろう風体の方でした。
当日、『駅まで迎えに上がりますよ』との言葉に甘えて待っていると。現れたその日の吉野社長は東京でお目にかかるときの印象とはおおよそ違う柔和な雰囲気で東京と地元での印象の違いに興味を覚えたものでした。

小弓鶴酒造 社長

火災後の小弓鶴酒造
訪れる前、地ビールの製造やビアレストランもやっておられるお話だったので近代的な酒造りをしている蔵を想像していましたが、着いてみると手作り感の溢れる昔ながらの酒造りを見る事が出来ました。私は以前醸造機器の販売問屋を行っていた事もあって蔵の設備を見るとどのくらいの規模でどのような造りをしているかは大体といって判ります。また、設備の中で何処にお金をかけているかで何を大事に酒造りを行っているかも想像がつきます。 そんな私の印象としては大変真面目な酒造りを志しているお蔵だと感じ入りました。
貯蔵庫を見させていただくと山廃のしっかりとした酒が豊富に眠っています。
社長は正直に私におっしゃいました。『長年大手蔵のお酒を頼まれてつくっていた事もあって自社製品の上手な販売が出来てこなかったので銘柄の知名度もありません。』私には、その言葉の裏に『だからこそ自社製品に時間とお金を費やす事が出来たのだと』聞こえてきました。
そして、その十分なる熟成を図ったお酒をシリーズ化して販売を行おうとしていた矢先の事だったが為に、このたびの火災によっていかがなってしまったかが大変心配でお電話をさせていただいたところ一部損害があったものの県の指導者に見ていただいたところ古酒については助かったものが何本かあるという事でした。

貯蔵タンク(上:火災前 下:火災後)
そして、先日お会いをしたときに試飲させていただいたその古酒は大変すばらしいものでした。
私どもの出来ることはこのお酒を広く皆様に味わっていただくことです。
火災から一年、ようやく製品化を行い今日『琥珀粋』という形で皆様方にご案内できる事となり大変うれしく思っております。
再建、再出発、熟成した酒への思い、火災にも耐え免れたお酒。様々な思いのこもったこの酒を是非皆様に一度味わっていただきたいと思います。
小弓鶴酒造のプロフィールと取扱商品